現在の畳床事情は先にお話しした通り、畳店さんの9割が建材畳床のみを使用しております。
私のようにワラ畳床に拘りを持つ畳屋は本当に少なくなりました。
私は商人でなく職人ですので、お見積り時に畳床がダメな時はハッキリと言わせて頂きますが、直せるようなら補修して使用する事をお話しします。
それは新畳工事(入替え等)と表替え工事では金額的に倍の予算が掛かる事になるからです。

そんな私にはワラ畳床に関する苦い思い出があります。
今から10数年前、我孫子市のお客様から新畳の入れ替え工事を頼まれました。
6畳間の畳でしたが確かに畳床が悪く、年数も大分経っていたので入れ替える事になりました。
当時、茨城の製畳屋さんの畳床を使用していてそのお客様は仕上がった畳を本当に気に入って喜んでくれました。
親父の代からワラ床に拘りを持ち、腕の良い親方が作るワラ畳ばかりを扱ってきて、当時のワラ畳床も本当に良い品でした。
数カ月後、隣の部屋の8畳も同じ品で入れ替えて欲しいとそのお客様に言われましたが、8畳間の畳床は程度も良く、表替えで十分使用出来た為、お客様にまだ勿体ないから同じ畳表を使用して表替えを薦めたのです。
同じ畳床で入れ替え工事を希望したお客様でしたが、畳屋さんがそんなに言うならと渋々納得して表替え工事となりました。
数年後、畳工事を頼まれた際、やっぱり今回こそ8畳間の方は6畳間と同じ畳床を使用して入れ替えて欲しいと言われました。
しかしその時、その製畳屋さんは廃業し、同じ畳床は無くなっていたのです。
お客様にその事を伝えると『だからあの時、入れ替えて欲しかったのよ!! 畳屋さんが表替えで十分って言ったからそうしたけれど』と怒られてしまいました。

当時は良かれと思ってやった事でしたが、お客様の言う通り入れ替えておけばと痛感した出来事で今でも苦い思い出です。
現在、その時と同じような事が数年後に起こります。
直せばなんとか使えても、数年後に良い品を使いたいと思った時には良い畳床が使えなくなってしまうのです。
現在お見積り時に畳床が悪く、修正して使ってもそんなに持つ事はないだろうと感じた時は畳床の現状をお伝えし、表替えと入れ替え(新畳工事)、2種類のお見積りを出すようにしています。
表替えで施工した場合、『次回入れ替え工事になります』と伝えても、その時、お客様が良質のワラ畳床やワラサンドを選びたくとも使えなくなってしまうからです。
良い品は使える内に使った方がお客様にとっても良い事になり、無くなってしまったらどんなにお金を出しても使用する事が出来ないという経験をしたからなのです。

畳床(土台)はそう取り替えるものではありません。
【使える物は使う】が当店の信条ですが、今入れ替えた方が良いという事もあるのです。
先を見据えた際、無理に畳床を補修して使うよりも新畳に入れ替えた方が得になる事もあると伝えるようにもしております。

【良い品が使えるのなら、その物がある内に使って欲しい】

畳職人としてお客様へのご提案です。

米井畳店店主、米井 仁